【Fiction】ばかばっか
後ろから人が来ることが明らかなのに、なぜ改札を出てすぐに立ち止まるのか。
電車を待つときは、二列の方が列が長くならなくて良いではないか。
電車から人が降りるときに、降車口を塞ぐのはやめないか。
良夫(よしお)はイライラしていた。場数を踏んでもカバーしようのないバカばっかだと。そもそも彼らは場数を踏んでホップステップで階段を上がっているのか。踏んで、踏みつぶして、それで終わってはいないか。あるいは踏んで、踏み外しているんじゃないか。
ヒトには後ろ向きに目がついていないことは知っている。そんなことは、生物学で習うまでもない。しかしヒトには考える頭と、想像する力がある。それで十分だ。と良夫は思っている。今、この場所で自分が止まれば後ろが困ることを想像するくらいはお茶の子さいさい、ひと欠片のケーキだ。
一列に並んでいるものが二列になれば、その長さは単純に半分になる。そんなことは数学で習うまでもない。というか教えてくれやしない。もはや考えるまでもない。無意識だ。
我先にと電車に乗り込み座りたいのだろう。疲れている時は、その気持ちもわからんでもない。しかし、冷静になるんだ。降りる人が降りきらないと、乗りたくても乗れないだろ。踏むものは場数だけではない。手順を踏め。世界はあなた一人じゃない。
しかし、かくゆう良夫もバカである。私に言わせれば。彼はバカに対してイライラしているバカであり、バカの行動原理を理解できないバカであり、バカの「バカごと」を解決することのできないバカである。
世の中は「バカごと」と、バカが作り出した「バカもの」で溢れている。
人類はみな兄弟であり、バカである。ゆえに、吾輩もバカである。
そんな我々バカが人生に悩んで、あーだこーだ考えて、あれやこれやしたところで埒(らち)なんて開きやしない。だったらそんなバカバカしく悩んでないで、バカなりにやりたいことやんべ。
さぁ、バカやっか。
fin.